おだしの定義と発祥

<おだしの定義>

 「だし」という言葉は、日本人なら誰でも知っている言葉ですが、あらためて「だしって何?」と聞かれると少し言葉に詰まってしまう方もいるのではないでしょうか。


『世界大百科事典 第2版』を調べてみると、
「だしとは、煮出し汁(にだしじる)の略で、だし汁とも呼ぶ。動植物食品のうま味成分を水に溶出させたもので、塩、みそ、しょうゆ、酢、みりん、砂糖などの調味料と合わせ用いて、料理の味を向上させる役割をもつ。また、すでに調味料を加えたそばのつけ汁やなべ料理の割下(わりした)をこの名で呼ぶこともある。」


と書かれています。ようするに、食材のうま味が溶けたお湯を「だし」と呼ぶわけです。

 この定義から言えば、かつお節や昆布から煮出したものだけではなく、肉や野菜を煮込んだ汁や、極端に言えば料理につかうのであれば、お茶やコーヒーだって「だし」になりえるということですね。

■世界の「だし」

 さらに、世界各地の料理には様々な伝統的な汁ものやスープ類などの煮出し汁があり、日本だけではなく、世界中に「だし」は存在するわけです。

 

 例えば、中華料理であれば、「豚骨スープ」として日本でもなじみのある、骨付き肉を煮出して取る、こってり濃厚な「排骨湯(ぱいぐーたん)」や、丸鶏や豚肉に、生姜、ネギを加えて取った、澄んだ中華だしである「上湯(しゃんたん」などがありますし、フランス料理であれば、肉類や魚介類、香味野菜、香草などを素材とする、スープベースに使用する「ブインヨン」や、ソースベースに使う「フォン」などが有名です。

 

<おだしの発祥>

 では、こうした世界の「だし」はいつ頃、どうやって生まれたのでしょう?
人間が火を使い始めたのは、170万年から20万年前までと、広い範囲で説が唱えられていますが、残念ながら「だし」は、煮出すことで初めて生まれるものですから、人間が火を使うことを覚え、食べ物を焼くようになっただけでは、まだ生まれることはできません。要はそこから人間が火の上に容器を置き、中に水を入れて食べ物を煮て食べるようになるのを待たなければなりませんでした。

 

 まず、最初に「だし」が生まれたのは約1万5000年前の、木の実や果実などの菜食が主体で、雨の多い地帯でもあった東アジア地域だったと言われています。でん粉を豊富に含む穀物は、生のままでは人間の消化器ではほとんど吸収できませんが、火で焼くことで、でん粉の大きな粒子が分解され、消化吸収できるようになることを、人は早くから経験上知っており、火を使い始めた人類は、次第に穀物が早く焼けるように粉にし、さらに加工しやすいように水を加えてこねて、団子状にして焼くようになりました。つまり、パンが誕生したわけです。

 

 しかし、木の実などには有毒な成分を含むものや、苦味、渋味といった、食べ物としてはふさわしくないものも多くあり、これらは焼くだけでは食べることができませんでした。

■煮るという技術

 ところが、いち早く「土器」と呼ばれるうつわを作りだしていた東アジアの人々は、こうした木の実などの植物も、煮ることで有毒成分が抜けたり、苦味や渋味がなくなって、しかも柔らかくなり食べられるようになるという事を発見し、豊富な食べ物を手に入れることができるようになりました。

 

 木の実や雑穀が、煮られるようになれば、当然その中に肉や魚介類も入れられるでしょうし、その結果、煮られたものだけでなく、その煮汁が美味しいということや、肉や魚介類と一緒に煮た穀物や植物が、それだけを単独で煮るよりも、はるかに美味しくなるということにも、多分すぐに気がついたと想像できます。

 

 このように、煮るという技術が発達したことで、同時に「だし」が生まれ、焼いただけでは味わえない“うまさ”を手に入れたわけです。

 

こうして生まれた「煮出し汁」は、それぞれの地域の食材が使われて、その地方独自の味を作りだし、それぞれの民族において独自の料理のベースになる食品として完成され、今日に伝えられることになったのです。