出汁素材「昆布」Ⅲ

<「だし昆布」の種類>

 

 現在、生物学的な「コンブ科」には14属45種があるようですが、「昆布」自体の名称は、生物学が生まれる以前からの名称であるため、アラメやクロメのように「コンブ科」であっても「昆布」と呼ばれず海藻扱いにされているものもあり、必ずしも名称と生物学的な分類とは一致していません。

 その中でも日本人が食用としている「昆布」は10種類程度で、その90%以上が北海道で収穫され、品種によって生育条件は限られているため、場所によって採れる昆布の種類は、ほぼ決まっています。また、その利用方法も、消費地域や用途によって使い分けられています。

 「だし昆布」としては、「真昆布(まこんぶ)」、「羅臼昆布(らうすこんぶ)」、「利尻昆布(りしりこんぶ)」、「日高昆布(ひだかこんぶ)」の4種類が主に使われています。

■真昆布(まこんぶ) 

真昆布」は、北海道の南部に位置する函館から函館近郊の恵山(えさん)を経て噴火湾(道内有数の漁場)あたりの地域に生育する昆布です。多くの別名をもっており、北海道の道南地方で採れるところから「道南昆布」と呼ばれたり、 江戸時代、函館で採れた昆布を北前船の出港地である小樽まで 運ぶ際に「山を越える」意味から 「函館から山を越えて出す昆布」 という事で「山出し昆布」と呼ばれたりもします。またその品質によっても銘柄が分れます。

 昆布は、日照条件や潮の流れ、山や川の入り具合と言った浜の地形や環境によってその品質が左右されるため、収穫される場所によってその品質はほぼ決まっており、これによって取引の価格差が生じることを「浜格差」と呼んでおり、その順位は昔から変わっていません。

 中でも道南北側、南茅部(みなみかやべ)で獲れる切り口が白い昆布を「白口浜真昆布」 、東側で獲れる切り口の黒い昆布を「黒口浜真昆布」、そして北側函館付近のものを「本場折浜真昆布」と呼び、道南の3大銘柄として真昆布のブランド名称になっています。中でも、天然の「白口浜真昆布」は江戸時代から三百年余り、朝廷・幕府への献上品 として奉納された献上昆布でもあり最も高級とされています。

 この「真昆布」は、主に「だし昆布」として利用されており、上品で透き通っていて独特の甘味がある“おだし”は、大阪でもっとも愛され、大阪で「だし昆布」といえば、大抵はこの「真昆布」を用い、取扱量は日本国内の90%に及びます。

 

■羅臼昆布(らうすこんぶ)

 「真昆布」と並ぶ昆布の最高級品である「羅臼昆布」は、北海道の道東地方にある知床(しれとこ)半島の根室側、羅臼沿岸のみで採れる昆布で、非常に大きくなるところから「オニ昆布」とも呼ばれます。香りがよくやわらかで、黄色味を帯びた濃厚でこくのある“おだし”が取れ、主に「だし昆布」として関東地方で使われており、その他の用途としては、食用として佃煮などにも適しています。

 現在では、関西でも消費量が多いのですが、使用され始めたのは明治時代からと、「真昆布」と比較すると関西では歴史の浅い昆布です。

 ただ、「北前船」の寄港地のひとつでもあり、江戸時代中期から薬売りとして北海道とつながりがあった富山県では、明治時代ごろから多くの人々が北海道に開拓民として移住しており、その多くが昆布をはじめとする漁業に従事し、中でも昆布王国の北海道羅臼町には、富山県黒部市の出身者が現在住民の7割を超えるほど多く移住しており、当時より交流が深かったこともあって、今も「羅臼昆布」の一大消費地となっています。

 

■利尻昆布(りしりこんぶ)

 「利尻昆布」は、京都で最も一般的な「だし昆布」であり、千枚漬、湯豆腐など用途が広く、料亭などでも使われており、「真昆布」や「羅臼昆布」に次ぐ高級品で、生産地は利尻島、礼文(れぶん)島及び稚内(わっかない)沿岸であり、礼文島香深(かふか)のものが最高級品とされています。

 「だし」の味は「真昆布」や「羅臼昆布」より薄いのですが、色が澄み、やや塩気のある「だし」は、素材の色や味を変えないため、京料理にマッチし重宝されています。

 さらに昆布を1年以上、長いものでは10年近く蔵の中で保管することで、昆布臭や磯臭さ、ぬめりを抜き、熟成を重ねて、「うま味」を増した「蔵囲い(くらがこい)昆布」と呼ばれる「利尻昆布」を使用している料亭もあります。

 

■日高昆布(ひだかこんぶ)

 関東での消費量がもっとも多く、一般的な「だし昆布」として用いられているのが「日高昆布」です。北海道の太平洋側、三石(みついし)町のある日高地方を主産地とするところから「三石昆布」とも呼ばれています。

日高昆布」は、早く煮え、非常に柔らかくなるので、昆布巻き、佃煮、おでん種など、昆布そのものを食べる料理に適していますが、「だし昆布」としてもよく使われてはいます。しかし、磯の香りが強く、他の昆布と比べると“うま味”成分であるグルタミン酸の含有量が少なく、物足りない感じを受けます。にもかかわらず、関東で多く使われているのは、江戸時代、昆布は北海道から「北前船」で、そのほとんどが大阪に集まり、そこから関東に運ばれ、必然的に質の良い「真昆布」「羅臼昆布」「利尻昆布」は地元関西で使われてしまい、当時もっとも収穫量も多かった「日高昆布」が、主に関東に送られていたという歴史があり、このことも関東で「昆布だし」文化が根付かなかった理由の一つと考えられます。