出汁素材「煮干し」

<「煮干し」の歴史と種類>

 

 西日本を中心に「だし」素材として使われる「煮干し」は、一般的には「かたくちいわし」を煮て干したものを指しますが、農・林・水・畜産物およびその加工品の品質を規定する日本農林規格、いわゆるJAS規格では、「煮干し」のことを「煮干魚類」と呼び、その定義は、「まいわし」、「かたくちいわし」、「うるめいわし」、「まあじ」のいずれかを「煮熟(しゃじゅく)」によって「たん白」を凝固させて、水分が18%以下になるまで乾燥したものとされています。

 ただ、その他にも、「とびうお」や「タイ」、「カマス」または「イカ」や「アサリ」、「貝柱」などの魚介類でも、煮て干したものは広い意味ではすべて「煮干し」となります。

 「煮干し」の歴史は古く、18世紀はじめごろの江戸時代、製塩が盛んで、いわしの獲れる瀬戸内海地方で、現在の「煮干し」に近い物の生産が始まったと言われており、当時より「かつお節」の代用として、「」の材料としても使われていたようです。

 ただその生産、流通、消費は西日本に集中しており、いわしがすぐに鮮度が落ちて生臭くなることから、上流階級には下賎な魚とされていたこともあってか、 関東ではほとんど使われませんでした。関東で「煮干し」の生産、流通が始まったのは、明治時代に入ってからだったようで、いまだに西日本に比べ関東では馴染みの薄い食材の一つとなっています。

 「煮干し」の呼び方も、東日本では「ニボシ」で統一されていますが、全国的にはその呼び名は多様で、20以上もあります。京都・滋賀・大阪では「じゃこ」「だしじゃこ」、中国地方では「いりこ」の呼び名がよく使われていますし、宮城の「たつこ」、長野や岐阜の「蒸し田作り」、富山の「へしこ」、和歌山の「いんなご」、熊本の「ごまめ」、「だしご」等々、地域ごとに伝統的な呼び方があります。

 

 2014年(平成26年)のデータでは、各都道府県民が1年間に「煮干し」を消費している量は、全国平均が68g、トップは宮崎県でなんと295gと、2位の広島県の147gに大きく差をあけて、ダントツです。宮崎県では、郷土料理である炊き立ての麦飯に「煮干しだし」のきいた冷たい味噌汁をかけて食べる「冷や汁」に加え、うどんやラーメンのだしにも「煮干し」を好んで使うことが消費量を押し上げています。逆に最下位は、「かつお節」の消費量No.1の沖縄県で10gとなっています。

 

 「煮干し」の代表格である「かたくちいわし」は、上アゴが下アゴよりも前方に出ていることから、この名前が付けられたと言われており、「まいわし」よりも細長い体形をしています。

 「かたくちいわし」の「煮干し」は、収穫された地域によって、大きく2種類に分けられており、一つが瀬戸内海や長崎の入り組んだ湾内の流れが穏やかな海でとれた「いわし」を原料にしたもので、ふんわりとしたボリューム感のある軽くて柔らかい「煮干し」となり、背中の色が白っぽく仕上がることから「白口煮干し」と呼ばれます。もう一つが「青口煮干し」と呼ばれる、その他の地域で取れたいわしを原料にしたもので、「白口」に比べると、身が締まっている感じで重くて堅い感じがする「煮干し」となります。

 

 「まいわし」の「煮干し」は、頭と内臓が「かたくちいわし」ほど苦くなく、味わいが濃く、かつ上品な「だし」が取れるのですが、最近では漁獲量が少なくなり、あまり作られていません。

 

 「うるめいわし」の「煮干し」は、身に脂肪が少なく、臭みのない、透明な「だし」が取れ、関西で特に人気があります。だし蔵の「関西おだし」は、この「うるめいわし」を使用しています。

 

 「まあじ」の「煮干し」は、「かたくちいわし」よりも、あっさりとした甘みのある「だし」が取れるのが特徴です。

 

 「とびうお」は、あごが落ちるほど美味しいと、「あご」とも呼ばれ、主に長崎で「煮干し」にされています。脂肪が少なく、「うま味」が強く、甘みのある「だし」が取れるのが特徴です。

 

 その他にも、東京の有名ラーメン店が使用し人気となった、脂の少ない「さんま」を使った「煮干し」や、淡泊で上品な「だし」が取れる「小ダイ」を使った「煮干し」など、地域に根ざした多くの「煮干し」が作られ、使われています。