出汁素材「しいたけ」

<「干ししいたけ」の歴史と「だし」の取り方>

 

 「昆布」に含まれる「グルタミン酸」、「かつお節」や「煮干し」に含まれる「イノシン酸」と共に、3大うま味成分の一つである「グアニル酸」を含む「干ししいたけ」は、和食、特に肉を使えない精進料理に欠かせない食材の一つです。

 その歴史は古く、「干ししいたけ」が食べられはじめたのは、9世紀ごろだと言われており、伝説では弘法大師(774~835)が唐(中国)から帰国後、「干ししいたけ」の食習慣を伝えたとも言われています。

 ただ当時は野生の「しいたけ」しかない時代で、わが国で採れる量は僅かしかなく、しかもそのほとんどが、その品質の良さから中国に輸出されていたようです。

 文献として料理本に「干ししいたけ」が登場するのは、16世紀に入ってからで、当時は、まだまだ高価な食材だったようです。

 

 江戸時代に入ると、「しいたけ」の栽培が始まります。これは栽培とは言うものの、ナラ、クヌギなどの原木に傷を付け、そこにシイタケの胞子が原木に付着してシイタケ菌の生育を待つという自然力中心の原始的な方法でした。

 それでも、この栽培により「しいたけ」の生産量は格段に増え、武士や富裕層などの特権階級や精進料理などでごくわずかに使われていた「干ししいたけ」は、ようやく庶民の口にも入るようになりました。ただ、まだまだ高級で、盆、正月、法事など「ハレの日」のご馳走に限られ、汁物、煮物、五目寿しなどに使われたようです。

 人工栽培が確立されたのは、20世紀に入ってからで、一般の家庭料理の食材として定着したのは、1970年代の健康食品ブームで「干ししいたけ」の効能が注目されたのがきっかけだったと言われています。

 

 「干ししいたけ」は、その収穫時期の違いによって、大きく3つに分けられます。

 「しいたけ」の傘が七分も開かない内に収穫された、肉厚の「干ししいたけ」は、「どんこ」と呼ばれ、「干ししいたけ」の中でも最高級品と言われています。

 さらに「どんこ」よりもう少し傘の開いたものは、「香こ(こうこ)」、七分以上開いたものは、「香信(こうしん)」と呼ばれています。

 「どんこ」は歯ごたえがあり、香り高いので、煮物、焼き物、炒め物に最適です。「香信」は、傘が開いている分、調理しやすく、味がしみ込みやすいので、五目寿司や炊き込みご飯などにおすすめです。中間の「香こ」は、両方の利点を持っており、和食から中華料理まで幅広く、利用できます。

 

 「干ししいたけ」のうま味成分である「グアニル酸」は、生の「しいたけ」にはほとんど含まれておらず、「しいたけ」に含まれる「リボ核酸」という物質が、別の場所に存在している酵素と、乾燥させることで細胞が壊れ、一緒となり、「グアニル酸」に生成されます。こうして干すことによって、「しいたけ」のうま味は10倍にも増加し、ビタミンDの含有量も増え、栄養とうま味が凝縮した状態になるわけです。

 「グアニル酸」は、熱を加えることでさらに増加することが判っていますが、悩ましいのは、加熱をすると同時に、「グアニル酸」を分解する酵素が活性化し、結果として、加熱状態が長引くと「グアニル酸」は減ってしまします。ですので、「干ししいたけ」は、単に戻すだけならお湯でも良いのですが、より美味しい「だし」を取ろうと思うなら、ゴミやホコリをさっと洗い流したあと、出来るだけ5℃以下の冷水でじっくりと戻しながら「だし」を取り、使う直前に加熱するのが正解です。

 目安としては、身の薄い「香信」でも、水に漬け、冷蔵庫で5時間以上、身の厚い「どんこ」なら、24時間程度漬けておくことが理想です。

 また「干ししいたけ」の「だし」は、「昆布」や「野菜」に含まれる「グルタミン酸」と合わさると、大きなうま味の相乗効果を発揮することも判っています。