だしとうま味

<「だし」と「うま味」の関係>

 

 「だし」はなぜ、和食の要となったのでしょう。それはもちろん、「だし」を美味しいと感じることができたからに他なりません。

 その「だし」のおいしさの秘密、それが「うま味」です。

 

■「うま味」と「おいしさ」 

 「うま味」という名前が付いているのでややこしいですが、実は「うま味」と「旨(うま)さ」、つまり「おいしさ」とは違います
確かに「うま味」は、「だし」などの「おいしさ」の重要な要素ではありますが、決してイコールでなく、あくまで甘味や塩味と同じく化学的な味覚成分の一つなのです。

 

 「うま味」は明治以降、日本人が中心となり、科学的に解明されていきました。
 この「だし」のおいしさの中心要素である「うま味」は、甘味、酸味、塩味、苦味のいずれとも違う第5の味として提起され、今や「うま味」は、日本だけでなく世界的にも「UMAMI」と呼ばれ、その地位を確立しています。

 

 ただこの「UMAMI」も、実はすんなりと世界に認められたわけではありませんでした。
 「うま味」の第1発見者は、「うま味」の命名者でもある東京帝国大学(現在の東京大学)教授だった池田菊苗(いけだきくなえ)氏です。世界では19世紀以前、舌が感じることのできる味覚は、酸味(さんみ)・甘味(かんみ)・塩味(えんみ)・苦味(にがみ)の4つとされていました。しかし日本人は、「だし」のおいしさの要素に、この4つだけでない何かがあることを、「だし」の味を通じて経験的に知っていたのです。

 

 そんな中、1908年(明治41年)に京都出身で小さいころから昆布だしに馴染んでいた池田菊苗教授が、ついに昆布の中から舌が感じることのできる第5の味覚である「うま味」物質を発見しました。この時「うま味」成分として発見されたのが、アミノ酸の一種である「グルタミン酸ナトリウム」です。

 

 「グルタミン酸」という成分の名前は、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。そう、うま味調味料である「味の素」の成分ですね。実は池田菊苗教授は「うま味」を発見すると同時に、この「うま味」成分「グルタミン酸ナトリウム」の工業的な製法を考案しており、発見の翌年1909年(明治42年)には販売を始めています。そしてその商品こそが「味の素」なんです。

 

 ちなみにたまに誤解されて記載されたりしていますが、池田菊苗教授が発見したのは、「グルタミン酸」が「うま味」成分であるということです。「グルタミン酸」自体は、1866年、ドイツの化学者リットハウゼンによって発見されました。

 

 池田菊苗教授が発見するまで、「グルタミン酸」と「うま味」が結びつかなかったのは、「グルタミン酸」は「ナトリウム」と結合しないと、味をみても酸っぱいだけで「うま味」を感じないためだったようです。

 

 この発見に続き、1913年(大正2年)には、池田菊苗教授の弟子であった小玉新太郎教授が、鰹節から抽出した「イノシン酸」も「うま味」成分であることを確認し、1957年(昭和32年)には、ヤマサ醤油の研究員であった国中明(くになかあきら)氏がシイタケに含まれる「グアニル酸」が新たな「うま味」成分であることを発見しています。

 

■うま味が証明されるまで

 このように次々と日本で発見された「うま味」成分ですが、当時多くの欧米の学者はこの発見に懐疑的で、「うま味は塩味・甘味などがほどよく調和した味覚に過ぎない」であったり、「うま味を感じられるのは日本人だけ」と言った間違った認識が主流でした。実はこの認識がくつがえされたのは、なんと「うま味」が発見されて約100年後となる2000年(平成12年)で、マイアミ大学の研究グループが、舌の味蕾(みらい)にある感覚細胞に、「グルタミン酸」に反応する窓口である受容体を発見したことによって、舌が、酸味・甘味・塩味・苦味とは別に「うま味」を感じていることが証明され、ようやく「うま味」は、世界に認識されることになりました。

 

 こうして「うま味」は世界中の誰もが感じている味であることがわかったのですが、当時、世界には「うま味」に対応する適当な言葉がなく、「UMAMI」として現在定着しています。このことからも、他の4つの味と「うま味」との違いをはるか昔から認識していた日本人の味覚の鋭さが証明された形となったわけです。

 

 ただ、現在は日本人も、ジャンクフードなど味の濃い食品に慣れてしまい、「うま味」を感じにくくなっていると言われています。「うま味」を発見した日本人の、世界に誇れる味覚を失わないためにも、食生活の中にどんどん「おだし」を活用してほしいと思います。