出汁素材「かつお節」Ⅳ

<「かつお節」の製造方法 2.茹で作業~いぶし作業>

 

かつお節」作りの工程は大きくわけると、

 

1、原料の処理 → 2、茹で作業 → 3、いぶし作業 → 4、カビ付け作業

 

の4段階で、最初の原料の処理で行う「生切り」と言う過程を経た鰹は、「煮熟(しゃじゅく)」と呼ばれる茹での作業を行いやすくするために、熱の通りの良い容器に、加熱されても形がくずれないように整然と並べる「籠立て(かごだて)」という工程に進みます。単純な作業ですが、乱雑に鰹を並べると、鰹が反り返ったり、曲がって、形の悪い「かつお節」が出来上がってしまうため、決して手の抜けない作業でもあります。

 「籠立て」をした容器は8~10枚重ねられ、ウインチでつり上げられてから、80℃~95℃の湯をたたえた煮釜の中に漬けられ、その大きさにより、約1時間30分から2時間、「煮熟」されます。この時、鰹の状態に応じ、適切な温度で適切な時間煮ることで、真っ直ぐでふっくらと締まった節が出来上がるわけですが、もし温度や時間を間違えると、曲がったり、締まらずに伸びきった節になってしまいます。

 化学的に言うと「煮熟」は、高温により鰹のタンパク質を完全に熱凝固させることで、魚肉に含まれている遊離水を分離し、付着した細菌や魚体内の酵素の作用を失わさせ、腐敗を防止すると同時に「熟成」を止め、旨み成分を封じ込める重要工程です。また生臭みを消す作用もあります。ちなみにこの「煮熟」に使われた茹で汁は、何回か使用した後、調味料メーカーが買い取り、濃縮させて、1000年以上前から「堅魚煎汁(かつおのいろり)」などと呼ばれる「かつお風味調味料」に加工しているところもあり、まさに無駄なく使われています。

 こうして「煮熟」された鰹は、残っている小さな骨を抜き、余計な皮や鱗を剥がします。その後、骨抜きにより生じた隙間や亀裂を、「生切り」で身を卸した時に出た、中落ちと呼ばれる中骨の周りについた身などを集めて、お湯で茹で、その後に生肉を2割~3割ほど混ぜて作った“すり身”を使って「修繕」し、節にするための形を整えます。

 この後、「かつお節」加工のメインとなる燻製(くんせい)乾燥の作業に入るわけですが、この「煮熟」を終えた段階のもの、もしくは1回だけ燻乾したものを、その色目が鉛のように見えることから「なまり節」、または関西では「なま節」と呼ばれ、40%前後の水分を含むため貯蔵性はなく、「かつお節」のようにだしをとるのには使いませんが、そのまま煮付けにしたりして食べると美味しいため、鰹の産地を中心に商品としても作られています。現在「なまり節」の最大加工地は、鰹の漁獲量No. 1の静岡で、全国シェアは50%以上です。

 

 「煮熟」し、形を整えられた鰹は、乾燥室に並べられ、「燻(いぶ)し」と言って、堅木を燃やして、下から、煙と熱を節にあてて、時間をかけて節の表面の水分を飛ばします。一度燻しただけでは、表面は乾いても、節の内部の水分はまだ沢山残っているため、一旦節を常温で一晩冷やして、節内部から水分を表面に出させます。この工程は「あん蒸(あんじょう)」 と呼ばれています。

 「燻(いぶ)し」と「あん蒸」を、節の大きさに応じて6回から15回程度繰り返し、節の水分量を30% 以下にまで減少させます。 この工程を「燻乾」または「焙乾(ばいかん)」と呼びます。薪の煙は節に芳香を与え、タール分を節の表面に付着させます。 このタール分の化学的な意義は、節のもつ脂肪分の酸化防止と節の腐敗防止です。薪の種類や置き方や火力の調整、燻す時間の違いなどによって、出来上がりが変わり、「かつお節」の味と香りを決める上で重要な工程です。

 中でも「一番火」と呼ばれる、最初の燻しは大切で、「水切り焙乾」とも呼ばれ、通常70℃前後で5時間程度行う「二番火」以降の燻しに対し、「一番火」は85~90℃の高温で1時間程度一気に熱することで、表面の水分を除き、雑菌を殺してネトと呼ばれる表面にできる雑菌の集落の発生を防ぎます。

 燻す方法は、地方によりさまざまで、例えば、今や幻とさえ言われる静岡県御前崎(おまえざき)地方の、数件でしか行われていない伊豆節の伝統製法「手火山(てびやま)式焙乾法」は、直火で燻すことにより、強い熱をまんべんなく節に行き渡らせ、節の乾燥も均一に行うことで、鰹の美味しさを中に閉じ込めるという製法です。

 その日の気温や湿度、薪の乾燥度合い、そしてさらに、魚の大きさと脂肪の有る無しなど、さまざまな条件から判断し、火ぶくれと言って、過度の高温による過熱によって、節の表面が膨れてしまうことの無いように火加減に注意しながら、火ぶくれ寸前の高温で燻しを行わなければ、より香り高い「かつお節」の製造が出来ないため、火の調節に非常に熟練を要し、後継者不足が課題となっています。

 現在の主流は、主に鹿児島県の枕崎、山川地区で行われている「焚納屋(たきなや)式焙乾法」で、2階建て構造で1階の火床で薪を燃やして熱と燻煙を発生させ、急造庫(きゅうぞっこ)と呼ばれる、2階に入れてある節を自然対流によってじっくりと焙乾する、もっとも通常の燻製に近い方法で、「急造庫式焙乾」とも呼ばれています。その他には、火床で薪を燃やして発生させた熱と煤煙を、上部のファンで強制的に庫内に導入し焙乾を行う「焼津式」があり、他の焙乾法に比べマイルドな節に仕上がります。

 こうして燻された節の表面は煙の中に含まれるタールに覆われて黒くなり、表面がザラザラとしていることから「荒節(あらぶし)」または「鬼節(おにぶし)」と呼ばれています。一般的な「花かつお」や「削り節」は加工のしやすさから、この「荒節」を削って作っていますし、このあとの工程で出来上がる「仕上げ節」に比べ、パンチが強く、切れのよい「だし」が取れるため、特に関西では好んで使用されています。