出汁素材「かつお節」Ⅴ

<「かつお節」の製造方法 3.カビ付け作業>

 

かつお節」作りの工程は大きくわけると、

1、原料の処理 → 2、茹で作業 → 3、いぶし作業 → 4、カビ付け作業

の4段階で、いぶし作業を経て、「荒節」と呼ばれる状態になった鰹は、カビ付け作業の前に「削り」と呼ばれる面に付着したタール分を取り除く作業を行います。

 紙ヤスリをつけた円盤がモーターにより回転する「表面削りの機械」に荒節を当てて表面のタール分を落とすと共に、形を整えていきます。このとき表面削りの時に出るタール分を含む粉は燻しの香りが極めて強く、大手食品メーカーが鰹節風味食品の香りづけのために好んで使うため、結構な高値で取り引きされているようです。

 綺麗に表面を削られた「荒節」は「裸節」と呼ばれ、生臭さがなく、削りやすいため、主に「食べるかつお節」として使われています。

 この「裸節」を日本で最も使っているのが沖縄県です。実は沖縄県は、「かつお節」の消費量が全国1位。最近は少し減ってきているようですが、平成24年度総務省統計局家計調査では、全国平均の約4倍の量を消費しているほど、「かつお節」をよく使っています。

 沖縄は、中国の医食同源思想の影響を受けた独特の食文化を持ち、体に良く薬膳料理にも使われる「かつお節」を好んで食べる習慣が昔からあったようです。「だし」を取った後の「かつお節」もそのまま具として食べるのが沖縄では一般的で、そのため、クセのない「裸節」が好まれているようです。

 

 さて、「削り」を終え、表面のタール分がなくなった「裸節」は、天日で数日間干します。 この作業は「日乾(にっかん)」と呼ばれています。 「日乾」の役割は、「かつお節」の大敵である湿気と害虫対策です。この後の工程でカビ付けを行うのですが、その付けるべきカツオブシカビは乾燥して水分の少ない場所に生える特性を持っています。この特性を生かし、酵母菌や腐敗菌などを発育させずに優良なカビのみを繁殖させるためには、水分含有量が18%以下である必要があるため、「日乾」は欠かせない作業となります。また、「かつお節」に付く害虫であるカツオブシムシの幼虫も高温多湿を好むため、まずしっかりと乾燥させておくことが、防虫対策にもなるわけです。

 

 そしていよいよ「かつお節」の最終工程である「カビ付け」です。天日で干した「裸節」を「むろ」と呼ばれるカビ付け室に入れカビが付くのを待ちます。この時「かつお節」に付けるカビは、昔は自然発生で付けていたようですが、現在は品質を安定させるため、純粋培養したカビ菌を人為的に噴霧して発生させています。

 もともとこの江戸時代中期の和歌山県印南(いなみ)町の漁民、角屋甚太郎が考案した「カビ付け」は、有害なカビなどの微生物が「かつお節」に発生することを予防し、カビに水分を吸い取らせることで「焙乾」だけでは除去しきれなかった節の中の水分を徐々に吸い出させ、「かつお節」をより乾燥させて保存性を高めるために開発された技法ですが、結果それ以外にも多くの効用がもたらされました。

 その一つが、カビの菌糸が分泌する脂肪分解酵素により、「かつお節」の中性脂肪が脂肪酸とグリセリンに分解されることで、風味を増すと同時に濁らず透明な出汁が取れるようになったことです。

 さらに「かつお節」に特有の香気を引き立て、より乾燥することで、うま味成分「イノシン酸」の含有率を高めて旨味をアップさせ、上品で口当たりのまろやかな旨みの凝縮した味を作り上げてくれます。

 

 その他にもカビ自身が生産する抗酸化物質である「コウジ酸」により、節表面の酸化を防止し、節の外観を良くするなど、一石二鳥どころか、四鳥も五鳥も効果が得られる素晴らしい製法であることが判ると思います。

 こうした菌による人間にとって有用な作用を「発酵」と呼びますから、実はカビ付けをした「かつお節」は発酵食品なんですね。

 カビ付けされた「裸節」ほ、水分がほとんどなくなり、「枯節(かれぶし)」と呼ばれる形になるわけですが、これで終わりではありません。裸節」の表面に最初についたカビは「1番カビ」と呼ばれます。つまり2番、3番があるわけです。

 「1番カビ」がついたところで、 節を「むろ」から取り出し、再び二日ほど天日で干した後に、カビを払い落とします。そしてもう一度、節を「むろ」に入れ「2番カビ」を付けます。 この様に「カビ付け」と「日乾」を繰り返すと、カビが節の内部の水分を吸収し 節が乾燥していきます。4回から5回この作業を繰り返すと、 鰹節内部の水分量が20%以下になり、カビの成長に必要な一定量の 水分もなくなるため、「むろ」に入れてももうカビが付かない状態になります。そこまでになる期間は、最低でも4ヶ月、長ければ2年という長い時間がかかります。

 この状態になったものを「本枯節(ほんがれふし)」と呼び、「かつお節」の完成形となり、雑味が完全に消え、旨みの塊となります。その固さは、ほとんど石で、世界一固い食材として、ギネスブックにも登録されています。

 このように、多くの工程と長い時間を掛けることによって、短時間で美味しい「だし」を取ることができる「かつお節」が作られています。