だしと水

<「だし」と「水」の関係>

 

 「だし」と言えば、当然、水を使って煮出すものですが、その水の性質によって、「だし」の味は大きく左右されます。

 水には、硬度と言う基準があります。これは、水に含まれる主な「ミネラル分」である「カルシウムイオン」と「マグネシウムイオン」の量を表した数値です。計算方法は国などによって、色々あるようですが、簡単に言うと、「ミネラル分」が多いのが「硬水」で、少ないのが「軟水」と呼ばれています。WHO(世界保健機関)の基準では120mg/L以下が軟水、120mg/L以上が硬水とされています。

 水の「ミネラル分」は、雨水や雪解け水が、大地に染み込み、川や地下水となって流れて行く過程で、周囲の地層の「ミネラル分」が、少しずつ溶け込んだものです。日本の水のほとんどは硬度50~60の「軟水」なため、日本人には「軟水」が好まれ、日本で作られるミネラルウォーターのほとんどが硬度40以下となっています。

 それに対し、有名なフランスのミネラルウォーター「エビアン」の硬度は304と、日本の水の5倍以上の硬度の「硬水」ですし、南フランスの天然の炭酸水である「ペリエ」は硬度が417もあります。さらにヨーロッパや北米には、硬度が1000を超える「硬水」のミネラルウォーターが多く存在します。

 これはヨーロッパや北米などでは、石灰質でカルシウムを多く含む4000m級の山々が多く、その地層を、地下水がゆっくりと通り抜けることによって、硬度の高い水を作り上げます。それに対し日本では、雨が多く、水が流れやすい火山性の地層が多い上に、高い山が少なく、傾斜も急なため、あっという間に地下水が通り抜け、ミネラル分をあまり含まない軟水が作られます。

 余談ですが、日本人は世界的に見て、塩分の摂取量が多いと言われていますが、これは、硬度の高い水で日常的にミネラル分を取ることができる他国に比べて、軟水の日本では、塩でミネラル分を取る必要があったことが原因だとも言われています。

 つまり日本人にとって、塩は生きていく上でなくてはならない調味料だったわけです。そんな逸話の一つに、「しおらしい」という言葉の語源があります。一般的には、「しおらしい」の語源は、草木がしおれる様子からだと言われていますが、別の説として、昔、山間部の人たちは塩が不足し、そのため塩は高価であっため、女たちに色仕掛けで、通りがかりの商人や旅人の持っている塩を巻き上げさせていたことがあり、その結果、山中で恥ずかしそうに言い寄ってくる女の狙いは「塩らしいから気をつけろ!」と言う噂が広まり、町では、健気で殊勝な態度の女性を指して、「しおらしい」という言い方が定着したいう、いかにもそれらしい話があります。そんな話が生まれるぐらい、塩は必要なものだったということですね。

 

 さて、では水の硬度が、どういう風に「だし」の味に影響するのでしょう?

 「硬水」は、その性質上、食材の灰汁(あく)を出しやすいため、料理に使うと、素材のアクを出して、臭いを取り除く効果があり、肉を使った煮込み料理などに向いています。しかし、「だし」のように、うま味を抽出するには、「硬水」ではミネラル分が邪魔をして、上手く「うま味」を取り出せません。特に昆布は「硬水」で取ると、「だし」が出にくく、昆布臭さが際立ってしまいます。

 日本の中でも、ヨーロッパほどではないにしろ、富士山のある関東などには、比較的水の硬度が高い地域があります。関東で、「昆布だし」が定着しなかった一つの原因は、この水の性質のためだとも言われています。

 現在でも、「だし」が出にくいなと思ったら、浄水器を通し、余分なミネラルを除去することで、より美味しい「だし」が取れるかもしれません。もし、「だし」を取るのに、ミネラルウォーターを使用する場合は、出来る限り硬度の低い「軟水」を使いましょう。